定年後も住み慣れた持ち家に住み続ける場合に問題になるのが、自宅のリフォームです。築30年~35年と長年住んだ自宅は、ご自身のからだに合わせたかのようにガタが出てくるものです。
また、子供が独立し夫婦二人だけの生活で自宅の間取りが住みずらくなったり、お風呂や床の段差がつらいといった高齢化特有の問題も起きます。
高齢化によるバリアフリーの重要性
老後も快適・安全に住むためには、自宅のバリアフリー化は避けて通ることができません。なぜなら自宅で不慮の事故に合い亡くなる方は、年間1万5千人にも上るからです。
厚生労働省発表の「平成24年簡易生命表」によると、60歳を迎えた人の平均余命は男性は83歳、女性は88歳となっています。日本人はどんどん長生きしますが、加齢がすすめば体力の衰えも無視できません。
医学の進歩で寿命は延びても、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間がそんなに伸びるわけではありません。男女とも晩年10年くらいは、体の自由が利かなくなり普通の日常生活が送れなくなってしまいます。
家庭内事故は交通事故より多い
厚生労働省の人口動態統計(2012年)によると、家庭内の事故による死者数は15,343人となり、交通事故による死者数6,741人を大きく上回ります。しかも家庭内事故死の80%以上(12,675人)は65歳以上の高齢者なのです。持ち家を終の棲家として選択する場合、これらの家庭内事故を防ぐためにバリアフリー化は必ず考慮しておくべき問題です。
詳しく見てみると、死因の原因で一番多いのがお風呂での溺死です。昔に建てた家は浴室と居間との温度差があり、冬の時期は10度以上になることも。この温度差による血圧の急激な上昇で脳梗塞や心筋梗塞などで倒れたり、血圧の急激な低下で脳貧血が起き浴槽で溺れたりすることが多いようです。(「ヒートショック」と呼ばれる現象)
他にも転倒や転落も多く、部屋に入るわずかな段差で転んだり、階段からの墜落などが死因として目立ちます。
家庭内事故の死因
死因 | 死亡数 | 内65歳以上の死亡数 |
---|---|---|
同一平面での転倒 | 1,482人 | 1,336人 |
階段やステップからの転落・転倒 | 481人 | 384人 |
建物や建造物からの転落 | 366人 | 203人 |
不慮の溺死及び溺水 | 5,498人 | 4,984人 |
浴槽内での、または浴槽への転落による溺死・溺水 | 5,097人 | 4,616人 |
家庭内事故の総数 | 15,343人 | 12,675人(82.6%) |
交通事故による社者数
死因 | 死亡数 | 内65歳以上の死亡数 |
---|---|---|
交通事故死 | 6,414人 | 3,410人(53.2%) |
上記の通り、自宅に手を入れないまま老後を過ごすのは危険です。60歳の時点で少なくとも30年は安全に住めるよう自宅をリフォームしておいた方が賢明です。
自宅のリフォームにかかる費用
ではいったいリフォームにはいくらかかるのかが気になるところです。
一般社団法人「住宅リフォーム推進協議会」の調査によると、リフォームにかけた費用は100万円から1,000万円までと幅広く、平均金額は664.8万円(中央値 461万円)となっています。
ちなみに戸建てが710.7万円(中央値 500万円)、マンションが490.2万円(中央値 380万円)と、戸建ての方が平均値で200万円程度高くなっています。
リフォームをするなら予定や予算に余裕を持って
上記の通りリフォームにかかる費用はばらばらです。人それぞれ、家庭環境や自宅の事情にもよります。どうせならといろんな箇所をリフォームしたくなりますが、老後資金に影響がないよう必要な箇所に絞れば費用を抑えられます。
60代以上の方がリフォームをするとなると、バリアフリーに関する段差の解消や、手すりの設置、風呂場の改修などが中心になります。
リフォームにかかる費用の相場
ユニットバス | 約80~200万円 |
トイレ | 約20~50万円 |
システムキッチン | 約70~300万円 |
フローリング(60平米) | 約50~100万円 |
一度に大きな工事を行うのではなく必要に応じてリフォームを重ねるという方法もありますが、バリアフリー化のリフォームは事故が起きてからでは遅いということ。
ただし、介護認定されると介護保険の助成を利用してリフォームができます。助成制度や支援制度を確認しておくと、リフォームにかかる費用の予定が立てやすくなります。老後資金に余裕があるなら早めにバリアフリー化にとりかかるべきですが、介護認定されてからでも遅くはないでしょう。
いずれにしても、老後を今の自宅で過ごそうとお考えの場合は、バリアフリーに関するリフォームは検討しておくべきです。リフォームにどのくらいお金をかけるかは、余裕資金とご自身やパートナーの健康状態によっても変わります。50代のうちから夫婦で価値観をすり合わせておき、自宅のリフォームで老後資金が不足しないように資金計画を立てることが大切です。