会社員の方であればまとまった金額の退職金を、定年のタイミングで住宅ローンの繰り上げ完済にあてるという選択肢があります。残りのローンをすべて完済して、新たに第二の人生を迎えたいと考えてる方も多いでしょう。
これまであくせく働いて毎月ローンの返済をしてきた訳ですから、住宅ローンを完済することでとてもすっきりした気持ちになります。しかし退職金はその後の老後資金の柱となるもの。住宅ローンの繰り上げ完済をした方が良いかどうかは十分に検討してください。
退職金で住宅ローンを完済すべきか
ほとんどの方が35歳前後に35年ローンを組んでいるでしょうから、一部繰り上げ返済などをし、住宅ローンの完済予定は60歳~70歳の時なのではないかと思います。60歳~70歳はちょうどリタイアする時期にあたり、退職時点でローンの返済が終わってない場合、退職金での一括返済が一つの選択肢となります。
住宅ローンの「一括繰り上げ返済」は、返済期間がまだまだ長く、借りた時の金利が高いほど、利息削減の効果が期待できます。返済期間が残り5年以内など短い場合は、利息の負担が少なく繰り上げ返済の手数料もかかるので、一括返済のメリットがない場合も。その場合は無理して完済せずに、定年後も払い続けるのも一つの方法です。
繰り上げ一括返済のメリット
退職金で一括返済するメリットは、なんといっても利息の軽減です。効果は利息分に限られるものの確実に節約することができます。仮に「ローン残高が1,000万円、残りの返済期間が10年、固定金利3%」で借りている人が、一括繰り上げ返済をすると、払う予定の利息分約160万円を節減できます。

一括返済は元金に充てられ利息分が削減できる
※完済に近づくほど返済額に占める利息の割合が少なくなり、一括返済の効果が少なくなる。
繰り上げ一括返済のデメリット
損得で考えると、一括返済は間違いなく得なのですが、必ずしも住宅ローンを退職金で一括返済した方がよいわけではありません。当然一括返済によるデメリットもあります。
リタイア後の資金繰り
退職金で住宅ローンを完済すると、当然完済に充てた資金は二度と戻ってきません。手持ちの現金が少なくなれば、急な出費に対応できなくなります。退職金を含むすべての資金を一括返済に充てすっきりしたものの、いざ病気や介護で大きな支出が必要な時に、高い金利でお金を借りるようでは本末転倒です。
老後の生活には、病気、介護、家のリフォームなど急にまとまったお金が必要になる場面があります。もしもに備えた現金をある程度確保した上で、退職金を含め余剰資金のみ繰り上げ返済に充てるのがよいでしょう。
その為には定年後のもらえる年金額や支出を試算し、自分の「老後の生活資金」はいくら必要かを把握しておく必要があります。
団体信用生命保険の終了
もう一つ住宅ローンの一括返済のデメリットとして「団体信用生命保険」の終了があります。ほとんどの方がローンを組む際に「団体信用生命保険(団信)」に加入していると思います。この団信は、ローンの主契約者が返済期間中に死亡や高度障害となった場合に、ローン返済が不要となる契約です。
例えば、無理して住宅ローンを一括返済した後に世帯主が死亡すると、残された家族は少ない資金での生活を強いられることになります。
これら『もしもの事態』も想定し、退職金の活用方法を検討する必要があります。
退職金の活用は慎重に
また住宅ローンの金利より高い利率で運用できる人は、一括返済せずに退職金を運用する手もあります。住宅ローンの金利が2%だった場合、その資金を返済に充てず3%の利回りで運用できれば、繰り上げ完済するよりも結果的には有利になります。(もちろん運用がうまくいかずにマイナスなる可能性もあります)
退職金で住宅ローンを一括返済した方がよいかどうかは、それぞれの老後資金や年金の受取額、住宅ローンの残りの期間や残債、保険料や税金など様々な状況により判断が分かれます。どちらにしても、「すっきりするから」という理由だけで決めずに、金融機関やファイナンシャルプランナーなどに相談することをおすすめします。