「年金はいつからもらえるのか?」でご案内した通り、これから定年を迎えるほとんどの方の年金の受給開始年齢は、原則65歳からとなります。(今後の改革案でさらに年金の受給開始年齢が引き上げられる可能性があります)
年金の繰り上げと繰り下げ
しかし、この受給開始の年齢は前後にずらすことが可能で、年金の受け取りを早める「繰り上げ受給」と受け取りを遅らせる「繰り下げ受給」という制度があります。
年金の繰り上げ受給は減額が一生続く
まず「繰り上げ受給」とは、早くて60歳から老齢基礎年金を受け取ることができる制度で、1ヶ月単位で繰り上げることができます。その変わり1ヶ月繰り上げるごとに、年金の受給額が0.5%(年6.0%)ずつ減額されます。
60歳で退職する予定の人は65歳までの無収入期間を考えると、繰り上げ受給はうれしい制度です。しかし、一度繰り上げ受給をすると、元に戻すことはできず一生減額された年金を受け取ることになります。
たとえば、40年間国民年金に加入した場合、老齢基礎年金は満額受給で年額778,500円(2013年10月~2014年3月の場合)ですが、これを5年繰り上げ受給し60歳から受け取る場合、30%(0.5%×12ヶ月×5年)減額された545,000円となり、20万以上も受取額が減ることになります。
受給開始年齢 | 受給年額(減額率) |
---|---|
60歳 | 545,000円(30%減) |
61歳 | 591,700円(24%減) |
62歳 | 638,400円(18%減) |
63歳 | 685,100円(12%減) |
64歳 | 731,800円(6%減) |
65歳 | 778,500円(0%減) |
※65歳から支給される老齢基礎年金の満額を基準(2013年10月~2014年3月の受給)
年金の繰り上げ受給のデメリット
繰り上げ受給は年金の減額以外にもデメリットが多くあります。例えば、年金の受給がスタートすると、「障害年金」を受け取ることができなくなります。後に障害を負ったとしても、本来受け取れたはずの「障害年金」を受け取る権利がなくなるのです。
繰上げ受給の注意点
- 障害基礎年金を受けられない
- 65歳になるまでは、繰り上げ受給の年金か遺族厚生年金のどちらかしか受け取ることができない
- 妻は夫が死亡しても寡婦年金を受けられない
- 国民年金の任意加入、追納ができない
- 振替加算は繰り上げ受給できず、65歳から加算される
年金の繰り上げ受給は、これらデメリットが多いため、慎重に検討する必要があるでしょう。
年金の繰り下げ受給は受給額を増やすことができる
一方繰り下げ受給は、年金の受け取り開始年齢を遅らせる代わりに、受給額が増える制度です。1年以上1ヵ月単位で繰り下げが可能で、増額率は1ヶ月あたり0.7%(年8.4%)です。(繰り下げる期間は最低1年必要で、5ヶ月などの1年未満の繰り下げ受給は不可)
最長70歳(5年間)までの繰り下げが認められていて、5年繰り下げた場合は、42%(0.7%×12ヶ月×5年)も増額された年金を受け取ることができます。
老齢基礎年金が満額受給できる場合は、年額778,500円(2013年10月~2014年3月の場合)の42%増額された年額1,105,500円の年金を一生受け取ることができます。1年で8.4%の増額ですから、金額で約66,000円です。一年繰り下げるだけで、これだけもらえる年金が増えしかも一生続くので、ぜひ利用したいところです。十分な老後資金があれば、お得な繰り下げ受給の制度を利用することができるでしょう。
受給開始年齢 | 受給年額(増額率) |
---|---|
65歳 | 778,500円(0%増) |
66歳 | 843,900円(8.4%増) |
67歳 | 909,300円(16.8%増) |
68歳 | 974,700円(25.2%増) |
69歳 | 1,040,100円(33.6%増) |
70歳 | 1,105,500円(42%増) |
※65歳から支給される老齢基礎年金の満額を基準(2013年10月~2014年3月の受給)
年金の繰上げと繰り下げどちらがお得か?
まとめると、年金の受給開始時期は以下の3つの選択肢があります。
- 通常通り65歳から受給する
- 繰り上げて65歳前から受給する
- 繰り下げて65歳以降から受給する
年金の受取額を総額で考えた場合、いつから受給した方がお得かは、その人の寿命によるので一概にはいえません。繰上げようと繰り下げようと、死んでしまえばそこで年金受給はストップするからです。
繰り上げ受給の場合は、繰り上げた年齢よりも16歳8ヶ月以上長生きすると、繰り上げ受給をしなかった場合に比べて受け取れる年金の総額が大きくなり損。繰り下げ受給の場合は、繰り下げた年齢よりも11年11ヶ月以上長生きすると得になります。
どちらにしても本当の損得は寿命次第で、仮に受給額を増やそうと頑張って繰り下げても、早く死んでしまえば年金の総受給額は減ってしまいます。しかし、平均余命は男性83歳、女性89歳ですから、平均余命まで生きるとすれば、繰り下げた方が確実に有利ということになります。
老後資金が十分なら繰り下げ受給を
平均余命や年金の増額率を考えると、繰り下げた年齢まで蓄えた老後資金で暮らせるなら、それが一番有利な選択といえます。
そこでポイントになるのが、60歳~65歳の無収入期間をどう過ごすのかということ。無収入期間の生活費も含め定年後の老後資金を十分に蓄えているなら問題はありません。ただし長い老後生活を考えたときに一番現実的なのは、60歳を過ぎても働くという選択でしょう。
継続雇用や再雇用などで現在の勤務先で働き続けることができるなら、一番確実な方法といえます。
関連リンク:60歳以降の働き方
妻の年金を繰り上げるという選択
年金は個人単位なので、夫の分だけ、妻の分だけ、繰り上げたり、繰り下げたりすることができます。どうしても早く年金を受け取りたいという場合は、妻の年金だけ繰り上げ受給し、夫の年金は通常通り65歳から受け取るという選択も可能です。この場合、前述のとおり、妻の年金は繰り上げ受給のため一生減額された年金をうけとることになるので、十分な検討の上判断してください。
やはり60歳~65歳の無収入期間の対策としては、早い段階から老後資金の試算をし貯蓄に励むことが一番。さらに、日頃から健康に留意し、60歳以降もなんらかの形で仕事を続けることがおすすめです。